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嫌いな言葉は「多幸感」

WWE Mixed Match Challengeに思うミックスドマッチのススメ

WWEでとうとうミックスド・マッチの大会が開催される。

www.wwe.com

ミックスド・マッチ(男女混合マッチ。だいたいは男1女1VS男1女1)が私は大好きだ。私が最も好きな試合の一つは今回のミックスドマッチにも出場するアスカ選手が主催していたカナプロマニアデザイアの金本浩二志田光VS宮本裕向中島安里紗戦だ。中島安里紗金本浩二に憧れてプロレスを始めたくらいに金本に憧れを抱く女子レスラーで、同じリングに上がるのは夢みたいに思えるとゴングが鳴る前から体じゅうで表現していた。男子選手に憧れる女子選手がその憧れの対象と対戦できるのは、プロレスならではの喜びだ。金本は中島をボコボコにした。コーナーポストに追い詰めた相手選手の顔を足の裏で何度も蹴って擦るフェイスウォッシュもふんだんにやって、中島はまあボコボコになった。試合後、中島に金本は言った。「お前、血だらけじゃねえか」お前がやったんだろう、としか言いようが無いコメントだが、それは金本の中島に対する、プロレスラーとして何の侮りもない受容だった。男と女。そこにはジェンダーが存在していないわけではない。中島の憧れの思いは多分恋にも似て、でもその気持ちはプロレスのやり方で存分に表現できるものだし、金本だってそれにプロレスのやり方で応じることができた。境界を曖昧にすることが融和の終着点だとでも言いたげな議論がはびこる中で、ただ、自分が自分としてありたい姿で、相手に対峙する場としてリングは私たちを許してくれる最高の場なのだ。

あらゆる競技において、男と女は分けられている。百メートル走の世界記録は一秒近い差があるし、走り幅跳びの世界記録は一メートル以上、男子の方が遠くに跳んでいる。だから男と女は別々に競技を行うし、それ以外の選択肢はないだろう。合理的だ。格闘技の試合だって例外ではない。普通は男子は男子同士、女子は女子同士で戦う。

男と女のそういった身体能力の差を根拠にして、だから男は女を守るべきなのだし、もしも男女が二人きりになったら女性は「そういうことになると了承したとみなす」のだと了解しなくてはいけない、と語る人も多くいる。有名な人だと、かつてブラックマヨネーズの吉田というお笑い芸人がアメトーークの時間帯にそのようなことを言って賞賛されていて、私は大いに耳を疑った。同時に、そのような理屈で現代に至るまで生じたいくつもの強姦事件が正当化されてきたのだと腑に落ちないまま得心するに至りもした。

私たちは人工的なルールの中で文明を築いてきたし、それゆえに戦闘力という意味ではかなり弱い動物であるにもかかわらず地球の支配者面をしていられる。そこには「人間は平等である」という普通に考えれば大嘘なのであるが誰もが信じなくてはいけない大前提が存在する。もしも前述の男女の腕力差による強姦の正当化を看過するならば、体を鍛えに鍛えた強靭な人物に対しては世のほとんどの人々は何をされても仕方のないことになってしまうし、彼と二人きりになるのは大きなリスクを抱えることと同義になってしまうので、強靭な人物は孤独な一生を過ごさざるをえなくなってしまう。でも私は気が合う相手で相手も私と仲良くしたいと思っているならばその強靭な人物とも友達になりたい。それを可能にしているのは、相手が自分に危害を加えないという前提であり、腕力の大小に関わらず人間は平等であるという当たり前のコンセンサスなのだ。

私たちはこの法治国家で(もうそうじゃない、というところまで来かかってはいるものの)、当たり前のようにこの大嘘を流通させて文明がもたらしてくれるものを享受しているし、ブラックマヨネーズの吉田だってそうなのだ。ただ時々、自分が他人を抑圧したいときや暴力を振るったりしたいときだけ、「そんなものは嘘だ、嘘を信じるふりをするのは欺瞞だ」とニヒルぶって、その前提は無効だ、と言ってみせるのだ。

プロレスに対する態度もそんな感じである。

あんなものは嘘だやらせだとニヒルぶって肉体の傷つく痛みを矮小化する態度は、あまりにも見慣れたものだ。
小さなルチャドールが両足で相手の首を挟んで遠くまで放り投げたり、ランバージャックマッチで、飛んできた一人のレスラーを受け止める時に10人近いレスラーがバタバタバタと床とキスしたり。んなわけねーだろ、な目の前の出来事に、でもプロレスファンは熱狂する。

ミックスドマッチなんて、その嘘の最たるものだと思う。女子レスラーがかけたラリアットで男子レスラーが空中でぐるりと回る。男子レスラーのエルボーを何度もなんども女子レスラーが受けて、平然と微笑む。でも、本当のことだ。
だから私はミックスドマッチが大好きだ。女が男を当たり前のようにぶっ飛ばす、男が女に対戦相手としてきちんと技をかける。「女が男に敵うはずないだろ」というニヒルぶった物言いを、プロフェッショナルなレスリングと選手を信頼しきったファンとで吹き飛ばし、人間同士の関わり合いはこんなにも豊かだと教えてくれるミックスドマッチが大好きだ。それは人間が文明を築いてきた自明な嘘の力強さを私たちに教えてくれる。

まあ、私の思いはそれとして、割と最近のWWEはお飾りだった女子部門をハード路線に方向転換していて、多分「ワンダーウーマン」のブームとかを見てミックスドマッチもいいんじゃないの?ってなってるんじゃないかなーと思います。もちろんミックスドマッチって言ってもタッグマッチだから男ー男、女ー女の場面になることの方が多いんだけど、それでも男ー女の組み合いが見られるっていうのはやっぱりスリリング。日本ではミックスドマッチって新日、全日以外ではかなり頻繁にやってるし、アスカさんは日本時代に自主興行で色々な形式の試合をやっているから、すごく今回の企画では重宝がられているんじゃ、と勝手に想像しています。新日本にいたらこういう試合をやることはなかっただろうし、中邑真輔ファンとしてもものすっごく楽しみ。